先進医療の重粒子線治療と陽子線治療とは
ガンの先進医療
■放射線治療には多くの種類がある
従来の放射線はガンの病巣以外も攻撃していた
従来の放射線治療で使用されている放射線は、電磁放射線であるX線やγ(ガンマ)線です。これらの放射線は、ガンの病巣に対して体外から放射すると、体の表面近くで最大放射線量になるため、病巣に届く時点では、十分に攻撃することができませんでした。さらに、ガンの病巣だけでなく、正常な細胞も攻撃してしまう特性があったため、体に対するダメージが大きいのが欠点だったと言えます。
●治療に使われる主な放射線の種類
-γ(ガンマ)線
-電磁放射線(光子) -|
| -X線
|
| -α(アルファ)線
| |-β(ベータ)線
放射線(電離放射線)-|-粒子放射線(荷電粒子)-|-電子線
| |-陽子線
| -重粒子線
|
-粒子放射線(非荷電粒子) -中性子線
※ひと言で放射線治療といっても、放射線にはさまざまな種類があります。なかでも、重粒子線と陽子線は先進医療として注目されている最新の治療方法です。
■ターゲットとなるガンに狙いを定めて照射できる
重粒子線を光の速度の約7割まで加速させて照射することにより、体の深部にあるガンを攻撃します。標的となるガンだけに強いエネルギーを与えて、従来の放射線より効果的に攻撃できます。X線では困難であった深部ガンにも適用されます。
■世界が注目する日本発の治療方法
重粒子線治療は、世界に先駆けて日本で実運用に成功した最新の技術です。多くの国で、日本が開発したこの装置の導入が検討されています。
■重粒子線治療の患者数(人)
・前立腺 2523(25.8%) / 先進医療2191
・骨・軟部 1071(11.0%) / 先進医療 850
・頭頂部 1038(10.6%) / 先進医療 715
・肺 897( 9.2%) / 先進医療 313
・その他 2453(30.4%) / 先進医療1365
・総合 1755(18.0%) / 先進医療 800
※1994年6月~2016年2月までに重粒子線治療を受けた人の数。2018年4月からの保険適用の開始により、さらなる患者数の増加が予想される。
出典:放射線医学総合研究所
ガンの治療は基本的に三大療法を第一選択の治療方針として行っています。しかし、近年の目まぐるしい医学の進歩よって、新たな治療方法が確立されつつあります。
なかでも「先進医療」と呼ばれる治療方法に注目が集まっています。先進医療とは、厚生労働省が高度な医療技術を必要とする治療に対して実績を認めた場合に、特定の医療機関でのみ受けることができる治療です。2018年8月現在で、93種類(ガン治療以外も含む)におよびます。
この先進医療を受ける際の医療費は、原則全額自己負担(通常診療と共通する部分は保険適用)であり、医療の種類や医療機関によって差があるのが現状です。
しかし、「健康保険法の一部を改正する法律」によって、一部ガンに対する重粒子線と陽子線治療などは「保険外併用療養費制度」を利用できるようになり、先進医療の治療患者の拡大が予想されます。
■先進医療として検討される陽子線治療とは
粒子線治療のひとつとして注目される陽子線治療
陽子線治療は、水素の原子核(陽子)を加速させてエネルギーを高めて治療する方法です。重粒子線治療と同様に、X線とは異なりガンを的確に照射できる点で、X線よりメリットが大きいです。重粒子線治療と陽子線治療は、同じ粒子放射線であり、治療方法の違いはあまりありません。ただし、重粒子線の方が陽子線よりガンを死滅させる効果が高いという特徴があり、治療期間も短くてすむされています。
陽子線治療施設は全国に14か所!
2018年8月現在、日本で陽子線治療を受けられる施設は14か所あります。また、重粒子線治療を受けられる施設は5か所。これらの施設数は増える見込みがありますが、専用の大掛かりな装置が必要になります。
現在、臨床実験中である注目のガンの最新治療が「ガン光免疫療法」です。ガンの表面に出ているたんぱく質に結合する性質を持つ抗体を投与し、その抗体に対して近赤外光を照射すると化学反応が起こり、ガン細胞が破壊されるという治療方法です。日本でも2018年から臨床実験が始まっています。ガン細胞を選んでピンポイントで攻撃できるので、治療による体への負担が軽くすむ方法として期待されています。
がん光免疫療法詳細
先進医療のひとつに、従来のX線を使用した放射線治療とは異なる新たな重粒子線や陽子線を使った放射線治療(粒子線治療)があります。
粒子線治療は、装置でつくった粒子を加速器で加速させエネルギーを高め、これを放射線照射室にいる患者の病巣に照射し、ガン細胞を死滅させる方法です。従来から行われる体の表面近くで最大線量(吸収される放射線の量)となるX線治療とは異なり、粒子線治療は狙ったガン病巣の位置で最大線量になる特徴があります。さらにガン病巣を突き抜けた瞬間に線量はゼロになるため、ガンだけをピンポイントで狙い撃ちできるわけです。
つまり、従来のX線を用いた放射線療法より、細胞の破壊力は強いのに、ガン以外の正常な細胞を傷つけることはないのです。そのうえ、治療期間も短く、照射回数も少なくて済むことが見込めます。
しかし、粒子線治療を受けることができる施設は、日本国内にはまだ19施設(陽子線のみ13か所、重粒子線のみ5か所、両方1か所)のみと、受けられる施設が少ないのです。
現在、保険適用されているのは、前立腺がん、頭頸部がん、骨軟部のがんのみであり、今後の保険適用範囲の拡大が期待されています。